大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富士吉田簡易裁判所 昭和45年(ろ)8号 判決

被告人 伊藤光之

昭八・一二・二三生 鳶職

主文

被告人を罰金三万円に処する。

この罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、武藤昇と共謀のうえ、昭和四四年七月一一日午後零時五〇分ころ、山梨県西八代郡上九一色村大字本字北ノ山恩賜県有財産内第五七林班ヲ小班の森林において、その産物であつて山梨県吉田林務事務所長の管理する熔岩二立方メートル(時価三〇〇〇円相当)を窃取した。

本件は、被告人の判示の窃盗行為は刑法第二三五条にあたるとして起訴されたものであるが、次の理由により、森林窃盗にあたるものと判断した。森林法は、木竹が集団して生育している土地およびその土地の上にある立木竹ならびに右のほか木竹の集団的な生育に供される土地(主として農地、住宅地またはこれに準ずる土地として使用される土地およびこれらの上にある立木竹を除く)を森林とし、森林においてその産物を窃取した者を森林窃盗として三年以下の懲役または三万円以下の罰金に処する旨を定めている(二条一項、一九七条)。右の森林の産物としては、同法が森林の保続培養と森林生産力の増進とを図ることを主目的としていること(一条)から考えると、主として木竹その他の森林に生育する物を予定しているもののようにも思われるが、森林における窃盗を農地、住宅地等における窃盗よりも軽く罰することを定めたことから考えると、本件熔岩のような森林に産出する岩石の類も、森林の産物から除外される理由はなく、森林窃盗の対象となるものといわなければならない。もしそうでないとすると、樹木の伐採窃取等に比してはるかに被害の軽いのを常とする岩石の窃取をかえつて重く罰しなければならないことになつて、刑の権衡を失する。

なお、右のように窃盗を訴因とする公訴に対し森林窃盗の事実を認定しても、行為および被害法益は同一であり、被告人の防禦に実質的な不利益を与えるものではないから、訴因の変更は命じない。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、森林法第一九七条、刑法第六〇条にあたるので、その所定刑中罰金刑を選択し、所定の罰金額の範囲内で被告人を罰金三万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例